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分利用できるので、現代社会の象徴でもある高密度高速度情報伝達が可能となっています。ところが、深海ではどうでしょう?水中で利用できる情報伝達手段となると今のところは音響が最有力です。音響の場合、周波数が光や電磁波に比べて極端に低く、せいぜいkHzオーダー、長距離伝搬の必要な場合はさらに低くHzオーダーとなり、情報量が極端に減少します。そこで、データ圧縮技術、ノイズ処理技術、高感度広帯域送受波器の開発などが必.要になってきます。
また、陸上では可視光によって映像をとらえ、例えば、晴れた日の高層ビルの最上階からは遠方の山々まで見渡すことができますが、どんなに透き通った海域でも水深400m辺りから下へは太陽光は届きません。そこからは暗黒の世界がひたすらに続くのです。これは、広大な深海底を探査しなければならないのに、まるで闇夜の中を懐中電灯ひとつで世紀の大発兄に挑んでいるようなものなのです。そこで、海底の精密な映像を得るために、光に頼らず、ここでも音の技術が利用されます。
さらに、海の中を動こうとすればいろいろな制約を受けます。もちろん、浮力がある分、陸上にいるように重力を支える必要はありませんが、海には流れや波があります。海で泳いだ経験がある人ならばご存だと思いますが、流れや波がある中で泳ぐことは楽ではありません。例えば、海洋の平均的水深である4,000mの海底を母船(水面にいる)からケーブルでつながった無人潜水機で探査することを考えてみて下さい。4,000mのケーブルには海流による流体抵抗がかかることになります。さらに、母船は水面の波の影響を受け動揺しますが、無人潜水機は水中で安定しているため、両者の相対変位がら途中にあるケーブルは緩んだり張ったりすることになります。4,000mといえば、富士山よりも高い距離です。つまり、富士山の頂上がらケーブルを垂らして、地上の無人潜水機を操作するさらに、そのケーブルには海流や波に起因する外乱が加わるというわけです。このような技術が容易には成し遂げられないことは簡単に想像いただけるでしょう。
では、そんなにケーブルが大変だ、大変だというならば、ケーブルを無くしたらいいじゃないかと言われる方もおられるでしょう。ケーブルの役目は電力の供給と船上にあるコントローラ間の通信になります。人に例えれば、脳や心臓が母船上にあって、これをへその緒の如く血管と神経でつないでいるようなものです。へその緒を無くすためには、すべての機能を無人潜水機白らが備えなければなりません。つまり、完全に自律した無人潜水機が必要になります。しかし、無人潜水機の頭脳がどこまで知能化でき、エネルギー源がどこまで大容量化できるか等、まだまだ乗り越えなければならない技術的課題はたくさんあります。
3. 深海開発技術部史
1978年(海洋科学技術センター創立7年目)に海洋開発技術部が深海開発技術部と海洋利用技術部に改組され、深海開発技術部では「しんかい2000」システムの開発に取りかかりました。発足当初は2つの研究グループより構成されており、主に潜水調査船及び同母船等に関する研究と、潜水調査船等で用いられる音響システムなどの研究を行っていました。1985年からは海洋利用技術部の一部が主として無人潜水機の研究を行うために加わり、現在の3グループ体制となりました。以後、大小様々な機器開発を経て、1996年7月現在では部長以下、主任研究員1名、第一研究グループ24名、第二研究グループ6名、第三研究グループ4名、事務補助員7名、総勢43名、このほか、外部有識者からなる客員研究員3名を加え、プロジェクト研究、特別研究、経常研究、共同研究を実施しています。以下に、深海開発技術部の設立以来18年間の技術開発トピックスをまとめました。
1971年・海洋科学技術センター発足
1978年・深海開発技術部発足
1981年・「しんかい2000」、「なつしま」完成
1982年・200m級小型ROV「レディーバード(JTV−1)」完成
1985年・海中作業実験船「かいよう」完成
1987年・500m級ランチャー方式ROV「HORNET500」完成
1988年・無人探査機「ドルフィン3K」完成
・細径ケーブル無人潜水機「UROV2K」完成
1989年・「しんかい6500」総合海上試験において、三陸沖日本海溝6,527mの潜航に成功
・音響トモグラフィのハードウェア開発に着手
1990年・「しんかい6500」、「よこすか」完成
・ウッズホール海洋研究所(米)と自律型無人探査機に関する共同研究を開始
・水中画像伝送システム完成、「しんかい6500」より母船「よこすか」ヘカラー画像をリアルタイムで伝送
・深海掘削船システムに関する開発研究に着手
1991年・有人潜水調査船外部救難システム、水深6,200

 

 

 

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